「ジブリっぽい」とは?ジブリに出てくるような「店舗外装」「住宅外観」の作り方をデザイナーが解説
「ジブリっぽい」という表現は多種多様
リノベーションや空間デザインの世界では、しばし「ジブリっぽい家」という表現で依頼が持ち込まれることがあります。
- ファンタジックでありながらどこか我々の日常とつながっていそうな独特の空気感。
- 日本の豊かな自然に囲まれた牧歌的でのびのびとした暮らし。
- 近代的な喧騒や無機質さとは無縁の表情豊かな内外装。
ジブリが描く家や店は、現代日本に暮らす我々にとって非常に憧れとなる空間ですから、こうした依頼が来るのは当然のことと言えるでしょう。
しかし一口に「ジブリのような建物」といっても、スタジオジブリが描いてきた空間は実に多種多様。
『千と千尋の神隠し』に描かれた遊郭建築を想像する人もいれば、
『天空の城ラピュタ』に登場したイギリスの風景を連想する人もいるでしょうし、
『風の谷のナウシカ』のモチーフとなったウクライナの荒涼とした世界と考える人もいるはずです。
そのためこのままでは、いざ設計のために打ち合わせをしたとしても「ジブリっぽい」という言葉のあやふやさのせいで、うまく希望を伝えることができません。
そこでこの記事では、「ジブリっぽい家」という言葉を噛み砕き、具体的な建築的特徴として整理しつつ、映画中のワンシーンを交えながら紹介していきたいと思います。
ここにあげる特徴を把握しているだけでも、デザイナーや設計事務所との打ち合わせが非常にスムーズになることでしょう。
どこか幻想的でありながら懐かしい雰囲気を纏う空間に憧れている方がいましたら、ぜひご一読ください。
(使用する画像は、2020年9月よりスタジオジブリ公式サイトにて開放された提供画像を用いております)
ちなみに「ジブリっぽい家の内装」に関する考察は、別の記事まとめております。
ご興味がありましたらこちらの記事も御覧ください。
「ジブリっぽい家」の外観がもつ3つの特徴
一口に「ジブリの家」といえども、作中で描かれる家や施設は洋の東西も時代設定も様々で、貧しいながらも豊かさを感じるこじんまりとしたものから大豪邸までさまざまと言えるでしょう。
しかしジブリが描く空間は、多様な時代や国籍のものでありながらいずれも独特の雰囲気や魅力を持っており、そこには共通する哲学やルールのようなものを感じさせます。
そんなルールの中でも、現代日本に暮らす我々が取り入れることができる「建築的特徴」のようなものが、いくつか存在します。
ここでは特に、下記の3点に注目してご紹介いたします。
- ①軒の出が小さく丸みを帯びた、民族建築風の屋根
- ②洋の東西を問わない「混国籍」な外装
- ③自然をとりこんだ、屋内外の境界が曖昧な空間
以下、実際の映画中の画像を引用しながら、一つずつ見ていきましょう。
1.軒の出が小さく丸みを帯びた、民族建築風の屋根
はじめに注目したいのが、ジブリに登場する住宅建築の屋根の形です。
ジブリ作品で舞台となる数々の住宅は、いずれも非常に特徴的で一風変わった屋根形状を持っています。
最も代表的なのが、皆さんおなじみ『となりのトトロ』に登場する「草壁家」です。
純和風の主屋に、西洋風の建物が増築されたと思われるこの建築は、2005年に「愛・地球博記念公園・愛知万博会場跡地」にて忠実に再現されたことからも分かる通り、ジブリを代表する建築の一つとして扱われていると言えるでしょう。
そして、この建築を象徴するのは、なんと行っても独特な形状をした急勾配の屋根を持つ増築部分。
先端部分が折り曲げたこの特徴的な勾配屋根は、建築の世界では「ドイツ屋根」と呼ばれる屋根形状であり、近世の住宅建築で多用された屋根の造形です。
もしサツキやメイが暮らす家が、純和風建築の主屋だけだったとしたら、これほど人々の記憶に残る建築とはならなかったでしょう。
本記事がジブリ建築の特徴として「屋根」に注目したのは、まさにこの草壁家があるからと言っても過言ではありません。
次に、こちらの2枚の画像を御覧ください。
こちらはそれぞれ、『魔女の宅急便』に登場する「キキの実家」と、『耳をすませば』に登場する「地球屋」の外観です。
ここに登場する2つの建築は、途中で勾配が変化する「ギャンブレル」と呼ばれる屋根を持っています。
イギリスを中心に流行したこちらの屋根は、ドイツ屋根同様日本ではあまり見かけない形状であり、それだけに新築物件を立てる際に採用すれば非常に存在感のある住宅となるシルエットです。
このギャンブレル屋根も、ジブリ作品ではしばし見かけるタイプの造形となっています。
加えて、『借りぐらしのアリエッティ』で登場する「翔の屋敷」。
映画をご覧になった方は御存知の通りこの屋敷は、大きな切妻屋根の主屋に付随する形で、八角形の平面を持つドーム屋根が用いられています(画像手前の棟)。
青森県にある擬洋風建築「盛美館」をモデルとしたとされるこの建築もまた、アイコニックで人々の記憶に残りやすい、印象的なジブリ建築の一つです。
以上のように見ていくと、ジブリ作品に登場する主要な建築物は、まずその屋根が形作るシルエットによってイメージが大きく決定していることがわかります。
もう少し詳しく言えば、「ジブリっぽい建築」と聞いて多くの人が思い浮かべる建築の屋根というのは、シンプルな三角屋根(切妻屋根・入母屋屋根)ではなく
- 曲線的で
- 軒の出が小さい
- 西洋〜中東の民族建築
がモチーフとなっていると理解することができるでしょう。
無論これらの屋根形状は、それぞれの土地がもつ気候や風土に応じて発展してきたものであり、雨が多く湿度の高い日本では必ずしも最適とは言い難い場合もあります。
(雨漏りの心配や、吹き込んだ雨による外壁の劣化など)
しかし、住宅性能の面を何らかの形でカバーできるのであれば、屋根形状にこだわることで一般の住宅建築とは一味もふた味も異なる建築となるのではないでしょうか。
2.洋の東西を問わない「混国籍」な外装
前項にて、ジブリが描く住宅の多くはどちらかといえば西洋的な屋根形状をもつ建物が多いことを指摘しました。
ジブリ作品には、イギリスやフランスをモチーフとした作品も多いことから、この事実は「あたりまえ」のように感じた読者のかたも多いかもしれません。
しかしジブリ作品をよくよく読み解いてみると、ジブリが描く建築には、特定の国や地域にとらわれない「無国籍」「混国籍」な印象を与えるものもたくさん存在していることに気が付きます。
例えば、「草壁家」は、主屋が農村に馴染む和風家屋であるのに対し、増築部は18世紀にイギリスやアメリカで流行した「クイーンアン様式」を彷彿とさせる真っ白な木板を重ねた外壁となっています。
この細長い板材を段上に重ねる外壁工法は「ラップサイディング(下見板張)」と呼ばれ、日本では北海道開拓を契機に輸入され木造校舎建築や小規模工場建築などの形で利用されながら、徐々に全国で取り入れられるようになった意匠とされています。
(ちなみに、『思い出のマーニー』に登場する大岩家も、おそらくこの「下見板張」で仕上げた建築です。)
戦後の日本の農村でよく見られた和風建築に、西洋の民家や明治時代に流行した様式を取り入れた事により、この草壁家は一口に「●●風の建築」と表現できないような、得も言われぬ雰囲気を獲得しているといえるでしょう。
(画像出処:https://www.ghibli.jp/works/)
また、ジブリが好きな外壁仕上げとして「塗り壁」が挙げられます。
ここに上げた「地球屋」と「翔の屋敷」は、ともに外壁に柱や梁による凹凸もなければ壁材の継ぎ目もないフラットな外壁を持っています。
外壁材の詳細は不明ですが、おそらくモルタル壁に塗装やリシン掻き落としなどの仕上げを施した、近現代的でフラットな仕上げとみて間違いないでしょう。
しばし「反近代的」なイメージで語られることの多いジブリ作品ですが、実は現代を舞台とした作品ではこうした非伝統的な建材も利用されていることがわかります。
もちろん『ハウルの動く城』の「ソフィーの帽子屋」や『魔女の宅急便』の「ぐーちょきぱん店」がそうであるように、純粋な「西洋風建築」をモデルとする建物や風景も、ジブリにはたくさん登場します。ジブリのような外観を作りたいと思った場合、自分が「西洋風建築」が好きなのか、「混国籍な建築」が好きなのか、を整理しておくと、より自分の好きな仕上がりに近づくでしょう。
3.自然をとりこんだ、屋内外の境界が曖昧な空間
最後に紹介するのは、ジブリ作品としての住宅だけでなく、現代住宅のトレンドとも言える重要な特徴です。
それはズバリ、「自然を取り込んだ空間」や「半屋外空間の活用」です。
縁側・ウッドデッキ・ピロティなど、近年の住宅には「屋外とも屋内ともつかない曖昧な空間」を確保することが人気となっています。
この動きは2020年に起こったコロナ騒動を契機に加速しましたが、その考え方自体はそれ以前のジブリ作品や、あるいは日本の伝統的な住宅でもしばし取り入れられて来ていました。
例えば『思い出のマーニー』に登場する「大岩家」は、その立地自体が森や畑に囲まれた自然豊かな環境ですが、台所と接続したウッドデッキや二階のベランダなど、屋内外をつなぐような中間領域がたくさん作られていることがわかります。
同じく日本の田舎を舞台とした『となりのトトロ』。
すでに当記事でも何度も紹介している「草壁家」の増築部分ですが、パーゴラ屋根と大きな開口部をもつこの棟は、差し込む日差しや吹き込む風を感じられるような非常に気持ちのいい空間として描写されています。
翻訳作業を行うサツキのパパの傍らに、メイちゃんが花を並べるシーンなどを見ていると、「屋内外が曖昧な空間」の魅力がよくわかるかと思います。
(画像出処:https://www.ghibli.jp/works/)
その他にもジブリ作品では、無数の胞子を栽培している「ナウシカの温室」や、建物全体が蔦で覆われている「キキの実家」など、植物と建物が渾然一体となったような空間が非常に数多く登場します。
もちろんナウシカの温室を実際に施工しようとすれば予算がいくらあっても足りませんし、蔦による外壁緑化は虫害や躯体の劣化など数多くのデメリットが有るためおすすめし難い側面があります。
しかし、植物との距離感や屋外の空気を取り入れる工夫をどこかに取り入れることができれば、「ジブリらしい空間」という夢への大きな第一歩となることは間違いありません。
これらの特徴を抑えることで、どこか非日常的でありながら普段の生活と溶け込むような「ジブリっぽい家」に近づけることでしょう。(ちなみに、「ジブリ建築」の王様とも言えるラピュタにも、この3つの特徴はあてはまります。)
実際の家や店舗の外装に「ジブリ感」取り入れる方法
1.様々な素材を使用して奥行きを出す
外壁を、1つの素材で仕上げると、シンプル・モダンな印象に仕上がりやすく、ジブリの外壁のイメージとは遠い印象になります。ジブリの外壁には、木、レンガ、青銅、塗装、左官など、様々な素材を使用されており、それぞれが時間の経過と共に、風合いを生じ、奥深い印象になります。
2.色彩計画にこだわり、統一感を出す
例えば、「和風建築」と「西洋の民家」や「明治時代に流行した様式」を取り入れた大岩家(上記)の場合、屋根の形状や建具(窓)などの雰囲気に統一感はありません。しかし、全体を緑味を帯びた淡い黄色で統一することで、統一感を出しています。
このパターンの場合は、あまり色を使用せず、2〜3色でまとめるのが基本です。既製の塗料では、絶妙な色合いを出すことは難しいですから、色作りにこだわると、ジブリのような雰囲気で、且つ美しい空間作りをすることができます。
3.柄で統一感を出す
逆に、沢山の色を使用して、代わりに「柄」で統一する、という方法もあります。上記のコルマールの風景の場合は、使われている色は、赤・青・黄、と色とりどりですが、窓の位置・屋根の高さ・ルーバーに加え、梁の柄で統一感が出されているので、どこか落ち着く、ポップで楽しい印象になっています。
場所別、ジブリのような外壁を作るアイデア
1.レンガを使った塀や外壁
ジブリの中でも、「洋風」寄りな外観に欠かせないのが、「レンガ」です。アンティークレンガを使用したり、より凹凸やアンティーク感が欲しい場合には、モルタル造形を使用する方法もあります。
2.装飾的な窓枠
魔女の宅急便では、奥のピンクの建物には装飾的な「はめ殺し窓」、手前のベージュの建物には青い「フランス窓」が採用されています。フランス窓自体を採用するのも素敵ですし、安価に抑える場合は「窓シャッター」のみを設置するのでもおしゃれに仕上がります。
思い出のマーニーでは、上げ下げ窓の周りの「額縁」が印象的です。高くついてしまう特注窓も、「はめ殺し窓(開閉不可の窓)」や、既成の窓の額縁のみを作る方法であれば、比較的安価に設置が可能です。
3.装飾的な出窓
『思い出のマーニー』では石積みの外壁に、ブルーの腰壁のある出窓がとても印象的です。『崖の上のポニョ』のでは、格子窓の出窓など、出窓は中からの雰囲気だけでなく外から見た印象も大きく変えます。
腰壁については下記の記事でも解説していますので、併せてご覧ください。
4.飾り柱
例えば、柵を飾り柱にするだけで、一気に空間が物語の中の世界のように変えることができます。柵全てを飾り柱にすることが、予算上難しい場合は、部分的に取り入れるだけでも、ぐっと空間に深みが出ます。
まとめ
この記事では、ジブリ作品に登場する住宅や店舗を比較分析することで、「ジブリっぽい」外装の特徴を整理してみました。
本記事の要約
- 「ジブリっぽい家」の外観がもつ3つの特徴
- 実際の家や店舗の外装に「ジブリ感」取り入れる方法
- 場所別、ジブリのような外壁を作るアイデア
これから新築・リノベーション・店舗内装をご検討の方は、ぜひこの3点を意識して内装を計画してみてください。
また、studio.sumutoco(スタジオすむとこ)では、ジブリのような空間づくりも得意としております。お気軽にお問い合わせ下さい。