内装デザインの目線で考える、「経営に失敗する美容室」の落とし穴

一年前に独立した先輩の美容室が、一年もたってないのにもう潰れちゃった……

内装もお洒落で順調そうだったのに、あんなに繁盛していても潰れちゃうの……?

一年前実はね、とこちゃん。美容室の中には、お客さんがたくさん来ているのに潰れちゃうお店もたくさんあるの

「開店した美容室の9割は、開業3年以内に廃業している。」

この数字は、美容室の開業を目指すだれもが知っている事実でしょう。
今どきの美容室は、開業前には経営事例を丹念に研究し、傾向と対策をしっかりと練り上げ、なおかつお客様を不快にさせないよう細心の注意を払い、それでもなお、潰れてしまうというのが美容室経営の現状なのです。
しかも美容室の中には、開店後の集客にも成功し、しっかりとお客さんを集めることができているにも関わらず、倒産してしまう美容室もたくさん存在します。

なぜそれほど多くの美容師が、短期間で経営に失敗してしまうのでしょうか?
実はそのポイントの一つのとなるのが、美容室の内装・インテリア面での課題なのです。

やっぱり内装にこだわりのないお店は、経営もうまく行かないのね、デザイナーさん!

……と言いたいところなんだけどね、とこちゃん。

言いにくいことなんだけれども、内装にこだわりすぎることもまた、お店の寿命を縮める原因になり得るのよ。

「美容室の内装」にまつわる不都合な真実

「美容室の内装」にまつわる不都合な真実

はっきり言って、開業の際に内装にこだわりすぎると、経営に失敗する可能性がぐっと高くなるのよ。

お姉さんは内装デザイナーなのに、そんなこと喋っちゃっていいの?

そうはいっても、「開業の初期投資をかけると、経営の初動は不安定になる」という基本的事実を、お客さんに隠すのはおかしいでしょ?

「内装へのこだわりは、開業直後の資金繰りを圧迫しやすい」というのは、多くの内装デザイナーが教えてくれない不都合な真実なのよね

経営活動の中には「長期的には有利だけど短期的には不利」という性質を持つ点がたくさん存在します。
特に「内装・インテリア」にまつわる費用は、美容室経営におけるそうした矛盾が最も顕著に現れる点といえるでしょう。
多額の費用をかけて内装デザインにこだわったお店が、集客に成功し売上を上げることに成功したにも関わらず、それを上回る速度の返済に追われる形となり、結果繁盛しているのに倒産してしまうケースは、美容院経営の代表的な落とし穴なのです。

しかしこうした点は、多くの美容院経営のアドバイスでは軽く触れる程度にとどまっており、十分な警告がなされていません。
また各内装業者にとっても、自社の売上を増やすために改装費を増やすことは提案しても、改装費を縮小することの重要性を教えてくれることはまずありません。
そのため、バランスの悪い初期投資を行った結果、開業直後に資金繰りが悪化し即座に潰れてしまう店舗が跡を立たないのです。

以下、「倒産してしまうお店」の実態を3つに整理しつつ、内装工事の経営上の影響について、考察していきましょう。

美容室経営失敗の原因は3パターン

そもそも、美容室が「潰れる」とは、どういう状況を指すのでしょうか?

大雑把に言えば、美容室が潰れる状況というのは、
「①客不足」「②人手不足」「③現金不足」
のいずれかの理由により、お店の運営が不可能になった状況を意味します。

①集客に失敗するケース

最もわかりやすい原因は、お店の利益を維持するだけのお客さんをコンスタントに確保することができず、経営が赤字になってしまうパターンです。
おそらく多くの人がイメージする「経営難」が、こうした営業力・マーケティング力の低さによる倒産かと思います。

このタイプの廃業は、

  • コンセプトがあやふやで読者層を想定できていない
  • 立地が悪かった
  • 宣伝が不足していた
  • 接客態度に問題があった
  • シンプルにスタイリングの能力が低かった

などの事情から、新規客やリピーターを確保できなかったことがその原因と言えるでしょう。
これまで経営をしたかったことがない人にとってもイメージしやすい廃業の形であるため、開業する方も「集客」に対する秘策や解決策を用意して店を開くことがほとんどです。

②スタッフを確保できないケース

次にイメージしやすい倒産のパターンは、スタッフ採用がうまくいかず、物理的・体力的にお客さんをさばききることができなくなった結果としての閉店です。
個人経営や夫婦で運営するタイプの美容室であればスタッフ採用の点はあまり問題になりませんが、美容室としての規模を拡大したり、他店舗経営を夢見る場合は、人材マネジメントの問題は絶対に避けて通れない課題と言えるでしょう。
特に近年では美容師を志望する若手の減少が叫ばれており、優秀なスタッフの確保はあらゆる美容室にとって悩みの種となっています。

人材が定着しない状況にも、

  • 採用募集に応募がない
  • 内定辞退などで人材を確保できない
  • 人材が定着しない

など様々なシチュエーションがありますが、労働時間や社員教育システム、福利厚生などを見直すことで少しずつでも改善していくことが求められます。

③現金が足りなくなるケース(黒字倒産)

そして、店舗経営を行う上で最も重要なのが、「現金が底をつく」という形の倒産です。
お金がなくなったらお店が潰れるというのは、一見当たり前のように見えますが、ここで特に気をつけたいのが「黒字倒産」、すなわち前述した、お客さんが集まっているのに倒産してしまう状態です。

例えばヘアカットの代金をクレジットカードやキャッシュレス決済で頂いた場合、どれほど売上を上げたとしても実際にそのお金があなたの口座に振り込まれるのは、月末や翌月になってしまいます。
すると、

「取引先への支払いや融資の返済期限が25日で、売上金が口座に振り込まれるのが30日

のような、帳簿上は大きな売上があるのに支払いができないという状況が、定期的に発生することがわかります。

こうした「あと○日後にはお金が手に入るのに、今支払いをしなければならない」状況は、経営において避けることができないシチュエーションと言えるでしょう。
手持ち資金に余裕がある場合はなんの問題も発生しない状況ですが、お店の運転資金がほとんどない場合、こうした状況を繰り返し乗り越えるのは非常に難しくなります。
結果、お店としては繁盛しているし売上も上がっているのに、収益面で倒産することを、黒字倒産と呼びます。

美容室経営では

  • 開業時に、融資や助成金が予定額に達しなかった。
  • 想定外の事故が発生し、大きな出費が発生した。
  • 資金に見合わない量の初期投資を行った
  • 事前見積もりが不正確なものだった。

などのさまざまな理由から、開業から数カ月は収入がないのに返済が必要になる時期というものが必ず発生します。
そのため開業する段階で、「売上がなくても○ヶ月は大丈夫」と身構えられるだけの運転資金や生活貯金がなければ、安心した経営は困難となるでしょう。
店舗の最初の1年間において、黒字倒産の発生は最も注意を払わなければいけない経営上の危機なのです。

「こだわりの内装」は、経営の武器としてはハイリスクハイリターン

以上、美容室が継続困難になる状況を、「①客不足」「②人手不足」「③現金不足」の3通りに分類してご紹介しました。
ここで重要となるのが、①や②といった「お店の魅力」がないパターンの倒産を防ごうとすればするほど、③の「現金が足りなくなる倒産」が発生するリスクが高くなるという経営上のジレンマです。

ある美容室が潰れたとき、人はその原因を「○○が足りなかったから」のように、単一の要素に固定しがちです。
しかし実際の倒産というのは、「あっちを立てればこっちが立たず」という局面に追い込まれた挙げ句、アクセルとブレーキを同時に踏まなければならないような無理難題に直面し、手段をうしなって倒産している場合がほとんどなのです。

魅力的なお店を作ってたくさんのお客さんを喜ばせるだけでは、美容室は運営できないのね。

店舗経営の難しさは、すべての行動に対して「その投資が金額に見合うものなのか」を常に判断しなければならないところね。

私達内装デザイナーは、ついつい独創的なインテリアのメリットばかり強調してしまいがちだけれども、「こだわりの内装」というのはハイリスクハイリターンな武器なことに注意が必要よ。

そしてそうした経営のジレンマの遠因を探っていくと、多くの場合そもそもの初期投資と運用資金のバランスの悪さ(≒改装費用の大きさ)という結論に帰着します。
美容室を開業するにあたって、多くの美容師が「こだわりの内装」「コンセプトに沿ったインテリア」を求めます。
実際、魅力的かつ個性的なデザインを実現した美容室は、集客や採用、ブランディングに極めて強い威力を発揮することから、美容室経営における強力な武器と言えるでしょう。

一方でそうした内装の実現には、設計・施工・材料などに大きな費用がかかることから、非現実的な収支シミュレーションや無理な返済計画といった非現実的な経営戦略を招きやすい要因ともなります。
多額の費用をかけて魅力的な内装を実現することは、典型的な「長期的には有利だが短期的には不利」な状況を引き起こすものであり、最もバランス感覚を求められる経営行為と言えるでしょう。

もちろん十分な予算をかけた店舗デザインは、長期的に見れば間違いなく経営者の味方よ。

でも、開業当初における「こだわりの内装」は、まさに諸刃の剣あるということを、しっかりと覚えておいてね。

まとめ|それでも「こだわりの内装」を実現したい!

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©️スタジオすむとこ 美容室施工事例(東京 渋谷)※画像の無断転載を禁止します。

以上、美容室が廃業する3つの背景と、内装デザインへの初期投資が与える影響を解説しました

本記事の要約

  • 美容室の廃業は「集客不足」「人手不足」「現金不足」の3つに分類できる
  • 魅力的な内装デザインは、集客と人手の不足を改善する力があるが、「現金不足」を招く可能性も高い諸刃の剣
  • よって内装設計・工事にお金をかける際は、開業後の運転資金とのバランスが重要となる

それでも自分のお店を持つ以上、手を抜いた内装なんて嫌!なにか方法はないの?

そういったお客様の悩みにも、可能な限り答えるのが私の仕事ね。

すべてを解決するような秘策や奇策はないけど、優先順位をつけて、絶対に実現したいポイントを絞ることが重要よ!

また、全体的な予算は乏しくとも、

  • 開業を先延ばしし、さらに開業資金を貯める
  • 融資の返済スケジュールを見直し、毎月の支払い額を抑える
  • 改装費以外の初期投資を抑える(家賃・人件費・宣伝費・自身の生活費)
  • 最小限の内装で開店し、経営が安定した頃に内装をリニューアルor多店舗で実現する。
  • クオリティを維持したまま、こだわりを実現する方法を模索する。

などの何らかの創意工夫や妥協によって内装費用を捻出することも、こだわりの内装を実現する上では必要な姿勢と言えます。

ちなみに、このブログを運営する設計事務所studio.sumutoco(スタジオすむとこ)も、美容室をはじめとする内装設備のプロフェッショナル。

もし美容室の開業でお困りのことがあれば、ぜひお気軽にお問い合わせください。